学習アプリ開発

2017年6月現在、非漢字圏出身の在日外国人数は、118万1,436人に達している。しかし中野(2002)ですでに指摘されているように在日外国人への行政の対応が追い付いていないのが現状である。また、既存の漢字学習教材や漢字学習アプリは文字の習得レベルに留まっており、インターネットで「日本語学習アプリ」というキーワードで検索すると漢字学習に関するものは3件のみで、漢字の読み書きを中心に扱ったものである。これらは伝統的な漢字教育のスタイルに沿ったものである。

そこで本開発では、

  1. 非漢字圏出身の在日外国人は今回製作する生活特化型日本語学習アプリの利用と学習促進を通じ、居住する地域情報を素早く収集できることで住みやすい環境を作り出せること
  2. 文法知識を積み上げていない外国人でも独学で漢字から読解へ縦断的に学ぶこと

を目的とする。

この学習を通して日本社会との共存につながり、学習参加チャンスも拡大するであろう。

本開発で提示する学習内容から以下の特徴が述べられる。読解教育と漢字理解には関連性があると川村(2001)や近藤(2015)で述べられているように、非漢字圏出身の外国人の読解力が弱い原因の一つとして漢字の知識が乏しいことが挙げられる。本開発はその立場で学習提示項目を「漢字→語彙→単文→文章」という順序に設定し、漢字から文章へ縦断的に学べるようにした。これにより漢字学習を読解に意識付けできるアプリがない現状を打破したことになる。また各学習項目に「英訳」と「やさしい日本語」を提示することで辞書を使わず学習できるようにした。さらに、生活に密着した日本語を学べることから、本開発は自治体で発行されている「広報誌」を学習内容に採用し、日本語教育では扱われてこなかった行政に関する言葉の教育も試みた。

適法に3ヶ月を超えて在留する外国人すべてが居住する地域の市町村に住民登録を行い、地域住民とみなされる。一方、自治体より配信される情報がすべて多言語対応や「やさしい日本語」への言い換えが行われていないのは現状だ。そこで、日本に滞在する外国人がこれらの情報誌や行政からの通知書が読めるようになる日本語力を身につけることは日本語教育として重要であると主張したい。本開発はこのような教育を補う役割を果たしていることが言えよう。

 

 

庵功雄・岩田一成・森篤嗣(2011)「やさしい日本語」を用いた公文書の書き換え:多文化共生と日本語教育文法の接点を求めて」『人文?自然研究』5号 一橋大学教育研究開発センター

川村よし子・北村達也(2001)「インターネットを活用した読解教材バンクの構築」『世界の日本語教育』No.6国際交流基金

近藤幸子(2015)「非漢字圏出身中級後期日本語学習者の読解過程の一事例:漢字理解と文章理解の関連性に関する調査より」『筑波大学留学生センター日本語教育論集』30号 筑波大学留学生センター

中野克彦(2002)「外国人住民の生活相談と官民の対応」『立命館言語文化研究』14号 立命館大学国際言語文化研究所

加納千恵子・清水百合・谷部弘子・石井恵理子(2015)『Basic Kanji Book』(Vol.1-2)凡人社

加納千恵子・清水百合・竹中弘子・石井恵理子・阿久津智・平形裕紀子(2001)『Intermediate Kanji Book 』(Vol.1-2)凡人社